隅田川、そこは江戸の人々が集い、遊び、心躍らせた有数の名所の一つでした。
中でも夏は、隅田川が最も輝いた季節だったといいます。
川開き、花火、夕涼みーー。江戸の夏はまさに、隅田川とともに幕を開けたのです。
隅田川の夏を描いた浮世絵作品は、人々の熱気や高揚を今に伝えます。
隅田川とともに、多くの浮世絵に描かれてきたもう一つの名所が両国・回向院でした。
回向院には六大浮世絵師の一人、鳥居清長が眠ることで知られています。
江戸文化の”華”である隅田川の夏と鳥居清長の、浮世絵作品による共演をお楽しみください。

隅田川の夏を描いた浮世版画が集結!

 現在、隅田川の花火大会は日本の夏の風物詩の1つですが、かつて旧暦5月28日に行われていた隅田川の納涼祭は、日本で最も有名な川開きの1つでした。

 歌川国満が描くように隅田川はたくさんの舟で埋め尽くされ、橋の上や岸には溢れんばかりの人が詰めかけました。そして人々はこの日、隅田川の夜空に打ち上げられる花火を楽しんだといいます。川開きから幕を開けるのが、江戸の「夕涼み」の期間でした。両国界隈の料理屋などはこの日から始まる3ヶ月は夜半までの営業が許され、納涼船での舟遊びも同様でした。隅田川の夕涼みは、夏を楽しむ江戸の庶民たちの象徴ともいえます。

巨大スケールの祭りを細密に描く! 貞秀《三都納涼図》一挙公開!!

 両国・隅田川の納涼祭に、大阪・浪速の天満祭、京都・祇園の納涼祭を加えた歌川貞秀「三都納涼之図」を公開します。この三作品が一堂に会するのは大変貴重で、三都の祭りの賑やかさを一望するまたとない機会です。三枚続きという巨大なスケールで、鳥瞰図のように描かれた日本を代表する三つの納涼祭は迫力たっぷり。目を凝らして見てみると、橋の上にごった返す人々、川を埋め尽くす船や夜を照らす提燈の明かりなどが細密に描かれており、その細かさに驚かされます。

 人々のざわめき、夏の夜の空気の肌触り、たちこめる匂い、注意深く覗き込むと視覚を越えた感覚までもが刺激される貞秀の名品をお楽しみください。

清長が描いた夏を大公開!

 両国・回向院に眠る鳥居清長は天明期に活躍し、現在もなお国内外から高い評価を受ける浮世絵師の1人です。

 清長が属する鳥居派は役者絵を専門とする集団ですが、清長が好んで描き、多くの人の心を惹きつけたのが美人画でした。彼の描く、すらり長い手足を持つ八頭身の女性たちは「江戸のヴィーナス」と称されます。清長は、美人画を通して様々な江戸の風俗を描きました。

 今回はその中でも、清長が切り取った江戸の夏に焦点をあてます。人々の遊びや表情、描きこまれた道具や涼やかな着物などにご注目下さい。

清長が生きた時代の絵師たちによる、夏を描いた肉筆作品!

 清長が生きた時代は、数々の優れた浮世絵師が活躍した時代でもありました。彼らは庶民の芸術である浮世絵を通し、夏を楽しむ江戸の人々を写しましたが、江戸の夏を描いた浮世絵は、版画作品だけではありません。1点1点彩色を施した肉筆作品にもまた、夏を楽しむ人々の姿を描いたものが多くあります。

 柳の木の下で集まり朗らかに盆踊りを踊る人々、団扇で風を送りながら涼しげな朝顔を眺める娘、蛍の光を追いながら裾を手繰り隅田川に遊ぶ女性ーー。遠い江戸の情景でありながら、それらは現在の私たちの姿や生活、心情と結びつく、どこか普遍的な「夏」をかきたてるものでもあるのです。